業務過多による教職員の働きすぎ防止や適正な労働時間の設定などを目的に、文部科学省では負担を減らすための様々な提言を行いました。これは、日本政府が旗振り役となって推し進める「働き方改革」の1つで、官民一体となった取り組みが始まっているのです。では、その提言とはどのようなもので、学校の現場はどう変わるのでしょうか?
国際的にみても働きすぎだと言われている日本の教員たち。政府が推進している「働き方改革」で、問題視されてきた教員の過重労働問題にようやくスポットが当てられるようになりました。ここでは、問題点や勤務の実態について説明していきます。
授業以外にも部活動や雑務などの仕事に追われている教員ですが、公立学校の教員には残業代が出ません。「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」、通称「給特法」という法律で定められている事項で、教師を事実上働かせ放題にさせているとして批判が多く寄せられていました。
給特法は、公立学校の教員が携わる仕事は授業以外にも多く、勤務時間をきっちりと測ったうえでの管理が難しいとの考えのもと制定されています。給特法は教員に月給の4%を「教職調整額」として支給しておき、超過分の残業代や休日勤務手当を支給しないと規定されています。部活動や授業の用意などの雑務で学校に残るのは、教員による自主的なものだと判断されてきました。
超過勤務手当や休日勤務手当が出ないものの、実際には時間外勤務の多い教員。政府の推進する「働き方改革実現会議」で決定された方針では、次のように規定することで長時間労働となっている現状を打破しようとしています。
通常残業時間の上限は月45時間、年間360時間と定め、繁忙期などの例外的な時期では月間100時間未満、年720時間、月45時間を超える場合は年間を通して6か月までとしていますが、この時間を月割りしてみましょう。月30時間程度の残業は過労死レベルの重労働なのです。繁忙期であれば過労死ラインを優に超えてしまいます。
未だタイムカードなどで出退勤管理をしていない学校もあり、時間管理が急務とされていますが、政府のとる対策はまだ十分とはいえないことが分かります。
中央審議会での審議では、2019年1月現在2つの提言がなされる結果となりました。
これらの提言に後押しされる形で、文部科学省は2017年12月に「学校における働き方改革に関する緊急対策」を、同年2月には対策の策定及び業務改善、勤務時間に係る取り組みの徹底についての通知を発表しました。ここでは業務を次のように分けて、教員の負担軽減を図ろうとしています。
「学校における働き方改革に関する緊急対策」では教員があたるべき業務、そうでない業務など以下の3つに分けています。
●(1)基本的に学校以外が担うべき業務
”①登下校に関する対応
②放課後から夜間などにおける見回り、 児童生徒が補導された時の対応
③学校徴収金の徴収・管理
④地域ボランティアとの連絡調整”
【出典】文部科学省 学校における働き方改革に関する緊急対策 【概要】 (平成29年12月26日 文部科学省)
●(2)学校業務に当たるが、必ずしも教員が担う必要がない業務
”⑤調査・統計等への回答等 (事務職員等)
⑥児童生徒の休み時間における対応 (輪番、地域ボランティア等)
⑦校内清掃 (輪番、地域ボランティア等)
⑧部活動(部活動指導員等)”
【出典】文部科学省 学校における働き方改革に関する緊急対策 【概要】 (平成29年12月26日 文部科学省)
●(3)教師の業務だが負担の軽減が可能な業務
”⑨給食時の対応 (学級担任と栄養教諭等との連携等)
⑩授業準備 (補助的業務へのサポートスタッフの参画等)
⑪学習評価や成績処理 (補助的業務へのサポートスタッフの参画等)
⑫学校行事の準備・運営 (事務職員等との連携、一部外部委託等)
⑬進路指導 (事務職員や外部人材との連携・協力等)
⑭支援が必要な児童生徒・家庭への対応 (専門スタッフとの連携・協力等)”
【出典】文部科学省 学校における働き方改革に関する緊急対策 【概要】 (平成29年12月26日 文部科学省)
(1)、(3)に関しては、地方公共団体が中心となり活動を推進することが推奨されています。他にも文部科学省や教育委員会が調査結果のまとめを行うなど、まさに官民一体となった協力体制が敷かれているのです。ガイドラインの作成やこれの順守、専門スタッフの活用も具体策に挙げられており、教員の負担軽減が図られていることが分かります。
教員の負担が大きい中高の部活動については、文部科学省とスポーツ庁が週当たりの活動時間の制限・休養日の設定などを盛り込んだガイドラインを2018年3月に示しています。これにより教員が部活動の指導に追われて休めないという状態を抑止でき、本来の業務に集中できるようになります。さらに、外部に依頼した「部活動指導員」を設置する学校も徐々に増えており、教員が部活動の業務から外れることも現実的になってきました。
また、教員の職場環境の整備として、スクールカウンセラーや各教科のサポートスタッフといった外部の人材の配置も進められています。これにより、今まで目が行き届きにくかった部分についても、教員が配慮する余裕が生まれてくるのです。
官民一体となって進める教職員の「働き方改革」は、ガイドラインの順守や外部の人材の登用によって実現されるものです。しかしタイムカードなどで時間管理を徹底しなくては残業に上限を設けた効果が薄れてしまいます。他人任せではなく、教員自身の意識改革も必要となるでしょう。
働きやすい環境と言うのはより仕事に打ち込める環境作りともいえます。制度や外部委託、機械などを導入する箇所と、より教員が力を入れていく必要がある個所を見極める必要があります。そして、これは学校により、学年により、受け持つクラスにより異なる場合もあるため、一つの体勢で決めるのではなく柔軟に変更できるような体制が求められます。
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