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分かりそうで分からない「同一労働同一賃金」問題を考察

健康経営ノウハウブログ編集部
2018/10/09 17:00:00

「働き方改革関連法」の成立により、同じ仕事内容であれば同じだけの賃金を支払わなければならないという「同一労働同一賃金」への対応が各企業で必要になりました。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金格差を是正する必要があるという、そのこと自体への異論は少ないものと思われますが、これを実際に導入するとなると克服しなければならない多くの問題があります。

それら検討を要するポイントを解説していきます。

 

日本型雇用の根幹「職能給」

あなたは日本型雇用という言葉からどういったことを連想しますか?一般的には、

  • 終身雇用
  • 年功序列
  • 企業別組合

を上げる方が多いでしょう。

 

しかし、他にも諸外国の雇用の仕組みと日本の雇用の仕組みには、様々な違いがあります。現在、見直しが検討されている「新卒一括採用」などもその一つですね。

例えば、日本では学校を卒業して企業に入ることを「就職」といいます。企業に入社して、そして新入社員は様々な部署に割り振られます。この感覚は欧米のビジネスマンにはなかなか馴染みがないようです。

欧米の雇用は、従事する職務を厳密に規定して雇用契約を結びます。このため、欧米企業で得られる給与は「職務給」です。これに対して日本企業ではその企業で働くことを契約しますが、なんの仕事にいくらの賃金を払うと契約するわけではありません。

あえて言うなら、その人の職務遂行能力に対して給与を支払うという契約の形態です。このため、日本企業の給与は「職能給」だと言うことができます。

欧米では役職が同じでも仕事の内容が違う場合は給与が違います。しかし、日本では「役職手当」などに見られるように、ポジションが同じであれば、そこに支払われる給与は同じくらいのものになります。 やや乱暴なまとめ方をするなら、日本においてはポジションに対して給与が支払われるという言い方ができるでしょう。

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職能給が機能しなくなった理由

職能給は、その人の能力に対して給与を支払う仕組みだということはすでにお話をしました。その人の仕事に対して、あるいは仕事の結果に対して給与を支払う仕組みではありません。仕事を長年続けていれば様々な経験を積めます。また、日本企業はゼネラリスト型の人材育成をしてきましたから、一人の社員が社内の様々な部署を渡り歩きます。その結果、その人は様々な職務能力を身につけることになりますし、また、身につけているだろうと見なされるために、それに伴って給与が上がっていきます。

これがいわゆる日本の雇用慣習である「年功序列」です。

 

しかし、ここには欠点があります。年々給与が上がっていくということは、裏を返せば、それまでは給与は低く抑えられてしまうということです。単純化してしまえば、年功序列制というのは、若い世代が低い賃金で働く一方で、上の世代がその分だけ高給をとれるというシステムです。しかし、高度経済成長からバブルの頃までは、このことが問題になることはあまりありませんでした。

なぜなら、就職さえしてしまえば、誰でも年数が経つに従って複数な部署で様々な職務能力を獲得し、それによって給料が上がっていくことが期待できたためです。多くの人がこれを当たり前のことと考えていました。ですから、若い頃は給料が安くても文句はでませんでしたし、長く勤めれば勤めるほど給料が上がっていきますから、大半のサラリーマンが一つの会社で一生を過ごしました。会社もよほどのことがなければ毎年の昇給と、定年までの雇用を続けました。いわゆる終身雇用です。

 

ただし、こうした仕組みが問題なく成立するのは、会社と社会全体が安定して成長を続けられる場合だけです。日本の人口は2008年をピークにして、それ以降は減少に転じています。それに伴って生産年齢人口も減少してしまいます。支える側よりも支えられる側の方が多くなってしまう未来が必ず訪れます。このことは、年功序列型の賃金体系の特徴である、多数の若者が低い賃金で働くことで、少数の中高年層の高い給与を支えるという図式が成立しなくなることを意味します。

また、人口が増えるということは、消費をしてくれる人が増えるということで、企業にとっては市場の拡大を意味しました。人口増加は経済の拡大にとってプラスの作用を及ぼします。1971年から1974年にかけての第2次ベビーブーム以降、一人の女性が生涯で産む子どもの数を示す合計特殊出生率は、人口の維持に必要とされている2.07を一貫して割り込んでいます。つまり、第2次ベビーブーム以降の日本は人口減少時代に入りました。

このことと、現在の日本経済の地盤沈下は無関係ではありません。国家の経済発展にとって重要なファクターである内需が人口減少によって下がりつつあり、また将来も下がってしまうことが予想できるためです。じわじわと進む内需の減少とバブル崩壊、それに続く失われた20年によって日本の経済成長が停滞してしまったことによって、給与を上昇させ続ける財政基盤も崩れてしまいました。

つまり、

  • 多数の若い世代が少数の中高年層を支える
  • 会社が成長を続けることで給与を上げ続ける財政基盤を確保する

 

年功序列型の賃金体系を支える基盤の2つともが崩れてしまったのです。こうして、長年在籍すれば誰でも高い給与をもらえるようになれるとは考えられなくなりました。

 

同一労働同一賃金と非正規雇用

年功序列型の賃金体系が成立しなくなりつつある中、これに取って変わりつつある基準が「同一労働同一賃金」です。これは、読んで字のごとく、仕事内容が同じなら同じだけの給与を支払うべきだという考え方です。その人の能力に対して給与を支払うという「職能給」ではなく、仕事に対して給与を支払う「職務給」に近いシステムです。

ただし、これを導入する上で浮上してくる問題が、正社員、つまり正規雇用の労働者と、アルバイトなどの非正規雇用の労働者を同一に扱うべきなのかどうかという問題です。なぜこれが問題になるのかというお話は、後ほど詳しく見ていきたいと思います。ここでは、同一労働同一賃金について、さらにくわしくお話を進めていきます。

2016年に政府が出した「同一労働同一賃金ガイドライン案」によると、同一労働同一賃金の考え方は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すものであるとされています。仕事の内容に直結しない能力や社歴などを基準として、正規雇用の労働者と非正規雇用の労働者との間に、基本給や諸手当などで差を設けることは容認されません。

ここから、例えば正社員とアルバイトとで、仕事内容が同じなら同じだけの賃金を払うべきだという前提がおかれていることが分かります。非合理的な理由により格差が設けられることは許されません。

 

逆にいえば、合理的な格差は許容されるともいえます。

住宅手当を例にします。正規雇用労働者にのみ転勤がある企業の場合、住宅費用の負担が大きいためにこれに対して住宅手当を支給する、といったことには合理的理由があるという判例があります。

 

非正規待遇改善のための財源問題

原則として、正規雇用も非正規雇用も同じ労働には同じ賃金で報いなければなりません。こうした是正が行われるのは、もちろん現状がそうではないからです。厚生労働省の調査によると、非正規雇用で働く労働者の賃金は概ね正規雇用労働者の6割程度とされています。

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参照:厚生労働省 平成29年賃金構造基本統計調査 結果の概況 雇用形態別資料より

 

もちろん、仕事の内容が違うなど、合理的な理由による賃金の違いは許容されます。

しかし、小売業やサービス業、宿泊業など、非正規雇用の労働力に頼る割合が高い業種ほど、その仕事内容で正規雇用と非正規雇用の間にそれほど差がないことが多いです。こうした業種に厳密に同一労働同一賃金をあてはめると、少なくない額の人件費の上昇が見込まれます。先に上げたような業種には資本力の乏しい中小企業も多く、中には事業の継続が危うくなってしまうこともあるでしょう。少し問題は違いますが、本質的には同様の問題として、韓国の現状をお話したいと思います。

韓国は現在、急激な雇用情勢の悪化に見舞われています。これは、韓国の最低賃金が毎年10%以上引き上げられ続けた結果、特に財務基盤の脆弱な中小企業が雇用を維持できなくなったためです。

このため、専門知識や熟練技術などを必要としない未熟練労働者の働き口が激減してしまいました。賃金を上げた結果、雇用そのものが失われてしまうのでは本末転倒です。これは誰にとっても望ましくない結果でしょう。

では、非正規雇用の賃金を上げられないなら、正規雇用の賃金を下げるのでしょうか?確かにこうすることでも、正規雇用と非正規雇用の格差は是正できるでしょう。

しかし、おそらくこの決定を受け入れられる正規雇用の労働者はごく少数でしょう。正規雇用労働者、非正規雇用労働者、企業、三者のいずれがどれだけの痛みを受け入れていくかという議論は簡単に結論が出るものではありません。

 

既存の給与体系にとらわれない

同一労働同一賃金という原則と、しかし、その実現が口で言うほどに容易な問題ではないということを見ていただきました。既存の給与体系の枠組みで考える限り、正規雇用労働者の給与を切り下げる以外に非正規雇用労働者との賃金格差を埋めることは難しいでしょう。

しかし、正規雇用労働者の賃金を下げることは、これも非常に困難です。

では、日本企業は今後どういった給与体系を採用していくべきなのでしょうか。 欧米型の「職務給」に移行するというのも一つの解決でしょう。仕事の内容によって賃金が決定されるという職務給制は、同一労働同一賃金との相性は抜群です。 将来の高給を約束することで若い頃は低い賃金で働いてもらい、その間にじっくりと人材を育てていくというシステムは、前の述べたように人口減少時代には持続させられなくなってしまっています。

そうではなく、その人材に今、何ができるのかということで給与を決定する仕組みに賃金体系を移行させれば問題は解消します。年功序列の体系の中で高給をとっている社員や、将来の高給を期待して、これまで低い賃金を受容してきた層が多くない若い会社であれば、この解決策はうまくいくかもしれません。

または、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務内容や責任を厳密に分けてしまうという方策も選択肢としてはありえるでしょう。職務内容や責任の重さが違うのであれば、これは賃金が違う合理的な理由になります。 厚労省が示した「同一労働同一賃金」のガイドラインには、労働者がどのような雇用形態を選択しても同様の賃金を得ることができて、多様な働き方を自由に選択できるようにするということが示されています。加えて、非正規という概念がなくなることが目標であるともされています。

これに従うなら、働き方改革と関連して、各人が副業、あるいは複業をもち、収入の不足を別の職で補いながら、より適正のある職を探していけるような仕組みが必要とされるのかもしれません。こういった慣行が行き届くようになれば、雇用の流動性が進むことで同一労働同一賃金の実現が進むことでしょう。

 

まとめ

アメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルはその著書『ジャパン・アズ・ワンバーワン』で日本の高度経済成長と、それを可能にした日本的経営を高く評価しました。日本的経営という概念の中には様々な要素が含まれていますが、その中の一つの要素が日本特集の雇用制度です。終身雇用と年功序列は社員の一生を丸抱えにし、これによって社員は会社に対して強いロイヤリティを抱くことができました。

このことは日本企業の発展を支えた要素であったはずですが、人口減少時代を迎えた今、こうした仕組みは持続不可能になっており、企業は社員の生涯安泰を約束して忠誠心を得ることはできなくなっています。 もはや持続不可能になってしまった年功序列制、今、同一労働同一賃金という仕組みが導入されようとしています。

これまでの賃金体系とは大幅に変わる仕組みであるため、その対応は困難です。特に、現在高い給与を受け取っている労働者や、後々の給与アップを前提として若い頃の低い賃金を受け入れてきた層には受け入れがたい変化でしょう。

ですが、もはや高成長に支えられた賃金体系が維持できなくなっている以上、必要な変化を受け入れなければ企業としての存続さえ危うくなります。

誰がどれだけの負担を受け入れるのか、社内での、社会でのコンセンサスを取り付けられるような話合いが必要です。

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